大阪家庭裁判所 昭和51年(少)4291号 決定 1977年2月07日
少年 N・M子(昭三六・一〇・二九生)
K・M子(昭三六・四・一四生)
M・T子(昭三六・一二・二五生)
主文
上記各事件についていずれも審判を開始しない。
理由
1 本件は、露店商を営む通告人が少年らにつき別紙記載のとおりの審判に付すべき事由があると主張して当裁判所に通告したものである。本件通告書には、通告に至る経緯として次のとおり記載されている。
(1) 通告人は、昭和五一年三月一四日守口市○○町○○公園を中心に開催された○○祭に露店を数か所出すため、少年らをその売り子として雇用した。
(2) 少年N・M子はコカコーラ売場を、少年K・M子はこれとは別のコカコーラ売場を、少年M・T子はアイスクリーム売場をそれぞれ担当し、各売場の売上金は少年らがそれぞれ管理した。
(3) 通告人は、同日少年らから売上金を受取り、帰宅後売上金額を計算したところ、少年N・M子及び少年K・M子が担当したコカコーラ売場の売上金が、同日のコカコーラ等の仕入れ数量及び売残り数量に比較して約八万円不足していることを発見した。
(4) 通告人は、少年らが共謀のうえ売上金から約八万円を窃取したものと思料したが、少年らは窃取したことを否定している
よつて本件通告に及んだ。
2 本件は一般人による通告であるため、通告人は本件通告書を当裁判所に提出するに際し証拠を何ら添付していない。よつて本件非行事実を認定するためには、当裁判所においてそれに必要な証拠を収集するほかなく、本件通告書記載の通告に至る経緯に照らせば、通告人が所持しているであろうところの昭和五一年三月一四日当時の飲料水等の仕入れ数量、売上数量、単価等を記載した帳簿類並びに通告人及び少年らを取調べることが必要であると思料される。ところが通告人は本件通告後、「少年らが売上金を窃取した旨の事実を立証し得る客観的証拠の収集が困難であること、日時の経過により関係人らの記憶が薄れていること、少年らが中学生であること等を考慮すると、少年らを取調べることは教育上適切でなく、現段階で終結された」い旨記載した上申書を弁護士立会のうえ作成して当裁判所に提出した。
ところで、家庭裁判所は実体的真実発見のため職権により証拠調を行なうことができるのであるが、非行事実の認定に関しては家庭裁判所は司法機関として中立的な判断者たる立場にあるべきであり、その職権証拠調は補充的なものにとどまるべきであると解される。そして本件のような一般人の通告による事件についても、当裁判所が職権により証拠調を行なうか否かについては、上記司法機関としての性格を十分考慮したうえで判断すべきであると思料されるところ、本件の被害者であると主張する通告人が上記のような上申書を提出するに至つては、仮に当裁判所が少年法一四条により通告人を取調べこれに通告人が応じたとしても、その供述にどの程度の信憑性があるか疑わしく、このような場合当裁判所が敢えて職権による証拠調を行なうことは、上記司法機関としての性格にも添わないと考えられるうえ、現在までの調査によるも、少年らはいずれもその日常生活に特別に問題とすべき点が見られないなど要保護性のないことがほぼ確実に見込まれる現況にあるので、これ以上調査を継続したり審判を開始して証拠調をしたりすることなく、少年らについてはいずれも非行なしとして現時点において終局処分の実現をはかることが相当であると思料される。
よつて少年法一九条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 楢崎康英)
別紙
(審判に付すべき事由)
少年らは共謀のうえ、昭和五一年三月一四日頃守口市○○町○○公園内の飲料水等の露店(通告人経営)で通告人所有の現金約八万円を窃取したものである。